大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和48年(ネ)609号 判決

控訴人 国府田元三

控訴人 有限会社金子屋商店

右代表者取締役 国府田元三

右両名訴訟代理人弁護士 駿河哲男

被控訴人 苅部雅雄

右訴訟代理人弁護士 鈴木栄二郎

主文

原判決(控訴人国府田元三については敗訴部分のみ)を取り消す。

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、こゝにこれを引用する(ただし、原判決添付物件目録表二行目「一九四番地」とあるを「一九四番」と訂正する。)。

被控訴代理人は、次のとおり述べた。

一、第三、第四の建物の建築について被控訴人は承諾していない。

1、松本源吾、池田登三次が仲に入り昭和四三年七月一日控訴人国府田と被控訴人間で賃貸借契約書が交わされるに至った契機は、控訴人国府田が旧建物について勝手に増築したり、借地外の土地まで不法に使用占有したり、賃借期間も終了するので、本件土地を明渡して貰いたいと被控訴人が松本に解決を依頼したものである。控訴人国府田から新築の申出があって、被控訴人の承諾を取りつけるべく松本が仲介の労をとったのではない。従って右契約の趣旨は、結果として控訴人国府田に本件土地を賃貸することとはなったが、貸地の範囲を明確にし、また増改築をめぐってごたごたが生じないようにするためであった。

2、控訴人国府田は、旧建物の二階に木造六畳一間を増築したいというので、被控訴人はこの程度ならと承諾したことはあるが、控訴人国府田から本件の如く本件土地一ぱいに二階建を新築する話などなかったし、被控訴人がこれに承諾を与えたこともない。本件土地の北側境界に接して原判決添付物件目録記載第三、第四の建物(以下第三の建物、第四の建物という。)を建築すれば、被控訴人の隣地の日照、通風等が殆どさえぎられてしまうのであって、かような建物の建築について被控訴人が承諾することはありえない。

二、第三の建物は、堅固の建物である。

第三の建物が堅固の建物であることは、原審において述べたとおりである。なお、控訴人らは、同建物は鉄骨が使用されているといっても、ほんの間に合せ的で部分的に使用されている程度にすぎず、本格的な鉄骨造りではないと主張するが、事実に反する。同建物の二階部分が木造でさほどの重量物でないのに一階については土台を深くおろし、重量鉄骨を使用する等不必要と思われるまで本格的な建物を建築したのである。

控訴人ら代理人は、次のとおり述べた。

一、第三、第四の各建物の建築について控訴人らは、被控訴人の承諾を得ている。

1、旧建物が周辺の店舗が次第に改装されるにつれ、老朽化してみすぼらしくなり、そのうえ狭すぎて営業上不利となったので、これの全面的改装を計画し、その実現のためには予め被控訴人の承諾を得るとともに、新規の契約書を作成することが肝要であると考えた。控訴人らは、できうるならば、右計画を昭和四二年中にも実現したいと考え、住宅金融公庫の融資を受ける手筈は整ったが、被控訴人の承諾を得る機会が得られず、その年中に計画を実現することを取り止めた。翌四三年旧建物の北隣の建物敷地についての被控訴人、玉田義雄間の調停事件が解決したことから、控訴人国府田の申入れによる全面建替えの話が進展し、漸く被控訴人の承諾が得られるとともに、新規の賃貸借契約書が作成される運びとなった。

右に至る話合いの経過の大筋は、左のとおりである。即ち、調停事件で解決した玉田義雄の建物を取り毀わし、その、その跡地を利用して控訴人らの建替建物を右跡地まで寄せて建築すれば、被控訴人にとって有利であり、控訴人らにとっても支障がないことから、建替建物を北側へ寄せることでは双方意見が一致したものの、反対側の南側を二間あけるか、三間あけるかでまとまらず、被控訴人宅へ控訴人国府田と松本源吾が訪ね、話合った結果、双方譲歩して二間半あけることで妥結寸前にまで及んだのであるが、もう一度現場にあたってみてからということになって話合いは成立しなかった。その後被控訴人より従来どおりの位置に建替えてもらった方がよいとの最終的意向が提示されてきたので、控訴人国府田もこれを承諾したものである。

2、そもそも控訴人国府田は、旧建物を全面的に建替えるためには、被控訴人の承諾を得たうえ、新規の契約書を交換しておく必要があると考えたのであって、旧建物の全面的建替えの承諾が得られたからこそ、前記契約書が作成されたのである。さもなければ、従前の契約によるもなお約一五年の賃借残存期間があるのであるから僅か五年間の期間を延長するため(前記新規契約によれば賃借期間は二〇年)新規に契約をする必要は毫もなかったのである。

3、なお、前記契約中の無断増改築禁止の条項は、この契約締結の前提であった旧建物建替えにより建築される第三、第四の各建物を爾後増改築する場合のことについて定めをしたものにほかならない。

二、第三の建物についての建築確認の遅れたのは、次の如き事情によるものであって、控訴人が何らかの意図があってその工事を取り急ぎ強行したものではない。即ち、控訴人らは、原審において述べた事由により第三の建物について当初の計画を変更してH型鋼を階下の基幹部に使用して建築するの止むなきに至ったのであるが、そのため建築確認申請の出しなおしを余儀なくされ、従ってまた建築確認も遅れたのである。

三、第三の建物は堅固の建物ではない。

第三の建物は、鉄骨が使用されているといっても、ほんの間に合せ的なものとして部分的に使用されている程度にすぎないから、当初から予定された本格的な鉄骨造りの建物とは全く性質、構造等を異にするものであるとともに、二階は完全な木造であり、従って第三の建物は、木造建物と同視して然るべきものである。

借地法が堅固の建物と非堅固の建物とにより借地権の法定期間に長短の区別をしていることを考えると、同法は建物の堅固、非堅固の区別の基準を主として建物の耐久性においているものと解することができるが、この区別を設けた目的は、借地期間の長期永続を予定する建物の所有を目的とする契約か否かを類別し、これに伴う両当事者の法律関係をできる限り公平に維持しようとすることにあるというべきである。そうだとすれば、契約を解除された場合建物収去が困難であるときは、土地所有者の解除権の行使が事実上制約されることが考えられ、また借地人より建物買取請求権が行使された場合建物の価額が著るしく高額のときは、借地期間満了の際の土地所有者の更新拒絶権を事実上奪うことになる場合のあることを考えると、建物収去の難易、建物の価額もその堅固、非堅固を区別する要素の一として考慮すべきであるといわなければならない。のみならず、建築の工法、資材の進歩に伴い、建物の耐久性には多様な段階が生まれ、構造、資材によって当然に耐久力の有無が区別されなくなったばかりでなく、その耐久性と収去の困難性も必ずしも一致するとは限らなくなっている。

然りとすれば、一般に鉄骨造り組立式の建物が木造の建物に比して著しく高額といえず、収去の点について特別に困難があるともいえないことは、今日常識となっている。第三の建物について著しく高額であるとか、また収去の場合に困難性があるとも認められないから、この点からも堅固の建物ということはできない。

≪証拠関係省略≫

理由

一、次の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

(1)  被控訴人は、本件土地を含む茨城県下妻市大字下妻字新町丁一九四番、宅地四八五・九五平方メートル(一四七坪)を所有し、ほゞ本件土地に該当する部分に旧建物を所有していたが、昭和二八年六月三〇日に右建物を控訴人国府田元三に売渡して東京に移住した。その際被控訴人は、控訴人国府田との間に、旧建物の敷地について普通建物所有を目的とする期間の定めのない賃貸借契約を締結した。

(2)  昭和四三年七月一日に至って、被控訴人と控訴人国府田との間で、改めて本件土地について、(ア)使用目的、普通建物所有、(イ)期間、向う二〇年間、(ウ)賃料、一か年坪当り四〇〇円、毎年一回八月末日払い、(エ)特約、賃借人は、賃貸人の承諾なくして地上建物の増改築または新築をしないこと、(オ)解除条項、前記特約に違反したときは、賃貸人は、催告を要せずに賃貸借契約を解除することができる、等の条項を定めた土地賃貸借契約を締結し、その旨の契約書を作成した。

(3)  その後控訴人国府田は、同年一〇月、本件土地に第四の建物を、控訴人有限会社金子屋呉服店(以下控訴会社という。)は、第三の建物をそれぞれ新築した。

(4)  被控訴人は、控訴人国府田に対し、昭和四三年一一月三〇日到達の内容証明郵便をもって、契約違反を理由として賃貸借契約解除の意思表示をした。

二、そこで被控訴人の主張する契約違反の有無について順次判断する。

1、無断増改築または新築禁止の特約違反の有無

(一)  ≪証拠省略≫によれば、

(1) 旧建物売買の際、被控訴人と控訴人間においてその敷地について、普通建物所有を目的とする期間の定めのない賃貸借契約が締結され(右事実は、前叙のとおり当事者間に争いがない。)、当初の賃料は、年額三、〇〇〇円であったが、その後七、〇〇〇円に増額された。

(2) 被控訴人は、換金の必要に迫まられ、旧建物を代金四〇万円で売却したのであるが、右建物は、木造杉皮葺二階建店舗兼居宅一棟で、表店舗部分と裏居宅部分は平家建、中央部分が二階建になっており、一階四八・七六平方メートル、二階一六・五二平方メートル、間口は三間であった。控訴人国府田は、右建物において有限会社組織で呉服商を営んできたが、狭いうえに老朽化し、周囲の店舗で逐次改装するものが増えてきたので、昭和四二年頃からその全面的改築を計画し、その資金の手当につとめる一方被控訴人に対し右改築の承諾をえようとしたがその機会がなかった。

(3) 他方その頃被控訴人と本件土地の北側に隣接する宅地の賃借人である玉田義雄との間に土地賃貸借に関する民事調停事件が係属し、昭和四三年被控訴人が地上建物を買取ることで解決をみたのであるが、被控訴人は、控訴人国府田が無断で賃借部分以外の被控訴人所有地を使用しているとして、賃貸土地の明渡の仲介を双方の知人である松本源吾に依頼するに至った。

(4) 右依頼を受けた松本源吾は、被控訴人に対して、土地の賃貸範囲を明確にして、引き続き賃貸するように斡旋した結果、被控訴人もその説得を受け容れたが、さらに松本源吾は、控訴人国府田が旧建物を全面的に建替えるについては、自己が調停委員としてその解決に関与したもと玉田義雄の借地跡まで建物を北側に寄せて建てれば南側の通路がそれだけ広くなり、双方に便宜であるとの案を提示した。控訴人国府田は、右提案を受け容れ、同年五月初頃、右案の趣旨を織り込んだ宅地賃貸契約書案および同添付図面を用意して、松本源吾とともに被控訴人方を訪ね、種々折衝した。被控訴人も右提案どおり北側に寄せて旧建物を全面的に建替えることを認め、その結果南側にあける通の路幅につき、被控訴人主張の三間と控訴人国府田の主張する二間とが対立し、持参した前記添付図面上に右主張の境界線を引いたりして交渉したが、結局双方が妥協して右通路の幅は二間半とすることに落着きかけたが、最終的には被控訴人側がもう一度現地を見たうえで決定することとした。

(5) 同月一九日頃、被控訴人および控訴人国府田は、松本源吾、池田登三次の立会いのもとで現地で会い、控訴人国府田に対し、旧建物の建替えは承諾するが、前回の話合いによる貸地部分を北側にずらすことは承諾できず、従前の位置とする旨回答した。そこで被控訴人および控訴人国府田は、賃料を約二倍の、近隣の最高額の例にならって年額坪当り四〇〇円に増額することとして(当時この地方では権利金等の授受の慣習はなかった。)、あらためて一の(2)掲記の土地賃貸借契約を締結し、その旨の契約書を作成した(なお、右契約書の作成日付が昭和四三年七月一日となっているが、これは、もとの契約の始期が七月一日となっていたことから、同日から賃料を増額する趣旨もかねてこのように先日付としたものである。)。

(6) そこで控訴人国府田は、早速旧建物の全面的建替工事の準備に取りかゝり、建築確認申請、金融機関に対し建築資金借入れの申込みをしたり、店舗内装工事の請負契約を締結したりした。

(7) 同年七月二〇日頃控訴人国府田は被控訴人に対し建築工事期間中の商品、家財道具等の置き場所として旧建物の北側および裏側の建物の借用を、また工事の足場のため本件土地の周囲の土地の使用方を申入れたところ、被控訴人はこれを断わり、その翌日頃本件土地の周囲にブロック塀をめぐらした。しかしながら控訴人国府田の建替工事に対して異議を申入れた事実は認められない。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

(二)  以上認定事実によれば、被控訴人は、当初の土地明渡要求を引き込めて引き続き賃貸することとし、さらに種々折衝の結果、本件土地上において旧建物を全面的に建替えることを承諾し、一方控訴人国府田は賃料を約二倍に増額することを承諾し、あらためて賃貸借契約をなしたものと認めるのが相当である。もっとも、≪証拠省略≫によっても、同人は、旧建物の建替えの承諾をうる際、たゞ店舗部分の間口を敷地一ぱいの四間に拡げることについて承諾を求めたのみで、二階建てにするほか詳しい建築計画については何ら話していないことが認められるけれども、右事実は前記認定に何ら妨げとはならないと考える。被控訴人は、右土地賃貸借契約は、単に貸地の範囲を明確にし、増改築をめぐる紛争が生じないようにするためであると主張するが、その当をえないことは前叙認定のとおりである。被控訴人は、また、本件土地の北側の土地の日照、通風等の点よりみても、第三、第四の建物の建築を承諾するはずがないとも主張し、≪証拠省略≫中には右主張をうかゞわせる趣旨の供述があるが、弁論の全趣旨によるも被控訴人主張の北側の土地は、旧建物の当時からもともと日照、通風等ですぐれない土地であることが認められ、前認定の被控訴人と控訴人国府田との折衝の経緯からしても、右土地の日照、通風の故に建替えの承諾をなすことはありえないとは考えられないから、被控訴人の右主張は理由がない。

(三)  してみれば、本件土地賃貸借契約において無断増改築または新築禁止の特約がなされていることは、前叙のとおりであるが、控訴人らは被控訴人の承諾をえて、旧建物を取り毀わして、第三、第四の建物を建築したのであるから、この点に関する被控訴人の主張は理由がないといわなければならない。

2、堅固の建物建築による土地使用目的違反の有無

(一)  本件土地の賃貸借契約による目的が普通建物の所有であることは、前叙のとおりである。

(二)  ≪証拠省略≫によれば、

(1) 右建物の一階は、重量鉄骨造の店舗(床面積七七・七八平方メートル)、二階は木造厚形スレート葺居宅(床面積六〇・四〇平方メートル)で、第四の建物と一体をなす店舗、居宅兼用の建物である。

(2) 一階の構造は次のとおりである。

(ア) 基礎 建物の南側と北側の両側面(それぞれ一〇・〇一メートル)の各四本の柱の基礎は、地下八五センチメートル、地上三〇センチメートル、基底部で一メートル四方、上方五〇センチメートルの部分は底辺部が一辺二六センチメートルの正方形の柱状をなす鉄筋コンクリート造りである。

(イ) 柱 柱は、南北両辺に各四本、計八本で、いずれもH型重量鋼(高さ二〇〇ミリ、その肉厚六ミリ、両面の長さ一〇〇ミリ、その肉厚九ミリ)であって、底部に座板を熔接し、アンカーボルト(径一六ミリ)二本で基礎と固く緊結されているが、ボルト締めをはずすことにより、柱を基礎から取りはずし、解体することは容易にできる状態にある。なお、西側の側面(七・二八メートル)には、両隅の柱の間に軽量鉄鋼の間柱(一〇〇ミリ×五〇ミリ×二三ミリ)が三本用いられている。

(ウ) 桁および梁 桁および梁には、H型重量鉄鋼((a)高さ三〇〇ミリ、その肉厚六ミリ、両面の長さ一五〇ミリ、その肉厚九ミリ、(b)高さ二〇〇ミリ、両面の長さ一〇〇ミリ―その肉厚は、いずれも(a)に同じ、以下同様―(c)高さ一五〇ミリ、両面の長さ七五ミリ、(d)高さ二五〇ミリ、両面の長さ一二五ミリ)および軽量鉄鋼(一〇〇ミリ×五〇ミリ×二〇ミリ×三・二ミリを二つ組合せたもの)を使用している。

(エ) 柱と梁のつなぎ部分 柱の頭部に鉄板を熔接し、これに梁をボルト(径一六ミリ)で取りつけている。また梁と梁とのつなぎ部分も一方に鉄板を熔接してこれに他方をボルト(径一六ミリ)で取りつけている。従っていずれも前記(イ)掲記の場合と同様容易に取りはずし、解体できる状態になっている。

(オ) その他 南北両側面は、各四本の柱の間にコンクリート軽量ブロックを鉄筋入りで積み上げて壁となし、外側は、前記本件土地の周囲にめぐらされたブロック塀(高さ約七尺)より上方はモルタルを塗ってあるが、それより下方は工事ができないためブロックがむき出しの儘になっており、そのため雨天の日には湿気が内部までしみ込んでしみができており、またその部分の柱H型鋼も露出したまゝ、防蝕用の塗料もぬることができないので、現在錆びている。内側は、ブロック壁に板を張ってある。東側は入口で、全面的に開口し、鉄のシャッターが取りつけられている。床はコンクリートの上に人造石を張り、天井には吸音テックスを張ってある。

(3) 二階居宅部分は、木造、厚形スレート葺で、外壁にカラー鉄板を張り、南側ベランダ部分にデッキプレートを張ってある。

(4) 一般に鋼材を使用した建物は、木造建物に比し、強度および耐久性にすぐれているが、鋼材に錆どめをしなければ、その耐久力は弱くなる。また本件の如くH型重量鉄鋼を使用した建物の解体の難易については木造建物と変るところはない。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  以上みてきたように、第三の建物の一階は、建築材料として鋼材を使用している点において、通常の木造建築に比較すると、その耐久年数が長いということができるが、その主要部分の構造はボルト締めの組立式であって、H型重量鉄鋼の柱八本もボルト締めをはずすことにより容易にこれを取りはずすことが可能であるうえ、基礎コンクリート、梁、建物外壁等の構造を全体としてみた場合解体が比較的容易であるなど、鉄筋ないし鉄骨コンクリート造に比較すると、堅固性に欠けるのみならず、周囲のブロック壁のための外壁工事等の不完全性により通常の鋼材使用の建物に比しても著しく堅固性に欠けるところがあると認められるから、これらの諸点を建築材料および建築技術の現状に照らして勘案すれば、右一階および木造の二階よりなる第三の建物が借地法にいう堅固の建物に該当しないと認めるのが相当である(最高裁判所昭和四六年(オ)第一、一六〇号同四八年一〇月五日第二小法廷判決、民集二七巻九号一〇八一頁参照)。

従ってこの点に関する被控訴人の主張もまた理由がない。

3、結び

以上のとおり被控訴人の主張する契約解除理由はいずれも認められないから、被控訴人が昭和四三年一一月三〇日到達の内容証明郵便をもってなした賃貸借契約解除の意思表示は、その効力を生じなかったものというべきである。

三、被控訴人は、さらに控訴人国府田が控訴会社に対し第三の建物の敷地を無断転貸したことを理由に昭和四四年七月一七日の原審口頭弁論期日において賃貸借契約解除の意思表示をなしたと主張するので、検討する。

1、被控訴人の主張する転貸の事実については控訴人らは明かに争わないから、これを自白したものとみなす。

2、控訴人らは、右敷地部分の転貸については被控訴人の承諾をえていると主張するが、右主張事実を認めるに足る的確な証拠はない。

3、≪証拠省略≫によれば、控訴人国府田は、昭和二二年頃から金子屋の商号で呉服商をはじめたが、税金対策のため昭和二七年四月一日これを有限会社組織にしたこと、出資者は同控訴人の親族、取引先(父の元傭主)となっているが、同控訴人が経営のすべての実権を握り、同控訴人の個人企業と実質的に何ら変らないこと、賃料は控訴会社の経理上の処理としては、同会社が支払ったことにしているが、実際には控訴人国府田が支払っており、従って同控訴人は転貸料を受領していないこと、なお、第三の建物の登記名義を控訴会社としたのは、金融機関より融資を受けるためのやむをえない措置であることが認められ、右認定に反する証拠はない。してみれば、個人である控訴人国府田が第三の建物の敷地部分を個人企業と実質を同じくする控訴会社に使用させたからといって、賃貸人である被控訴人との間の信頼関係を破るものとはいえないから、背信行為と認めるに足りない特段の事情があるものというべく、従って被控訴人が主張するような民法第六一二条第二項による解除権は発生しないことに帰着するというべきである。

よって被控訴人の主張は理由がない。

四、以上の次第であるから、賃貸借契約の解除を理由に、控訴人らに対し建物収去土地明渡を求める被控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきである。

よって右と判断を異にする限度において原判決は不当であり、本件控訴はいずれも理由があるから、民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田辰雄 裁判官 小林定人 裁判官野田愛子は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 岡田辰雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例